○ルパンシリーズと翻訳権
ルパンジリーズ初の翻訳は明治42年(1909)の「巴里探偵奇譚 泥棒の泥棒」だったと言われています。森下流仏楼による「黒真珠(1-8)」の翻案で す。初期の翻訳は、登場人物や舞台を日本風に改めた翻案で、その後登場人物名など原作のままの翻訳が登場します。そして、大正7年(1918)に保篠龍緒 氏が「怪紳士」を出版します。保篠龍緒氏は、日本ではまだ翻訳権の概念が浸透していない中で翻訳権の取得に乗り出し、後に取得します。そして、ほぼ全ての 作品を翻訳し戦前から大戦直後までの翻訳を独占します。
(保篠龍緒氏が所有していた翻訳権については、信頼できる情報に当たっていませんが、昭和4年(1929)の平凡社版ルパン全集が出る頃にはすべて の作品についての翻訳権を取得したらしいのですが、1935年に失効したようです。戦後出版されなくなっていくのはこのためです)
戦後昭和30年代になり、あらためて著作権を獲得しようとしたのが新潮社、東京創元社、ポプラ社の三者でした。このとき、新潮社が文庫版を、東京創 元社が全集版を、ポプラ社が児童書を翻訳する権利を得、三社のシリーズが出揃うことになりました。しかし、新潮社の文庫版は10冊出した時点で終わってし まいます。そこで昭和40年代に東京創元社が新潮社から翻訳を出していない作品の翻訳権を譲り受けて文庫版を出版しました。ここで今の状況が揃ったわけで す。
昭和50年代には偕成社アルセーヌ=ルパン全集が出版されました。保篠版や東京創元版の全集では未訳であった作品もあるため、シリーズが一つのレー ベルで揃った初めての例となります。この出版に当たっては、推測ですが、東京創元社が持っていた全集版の翻訳権を譲り受けたのでは、と思います。東京創元 社の全集は増刷していなかったのでしょう。

○翻訳権の例外
翻訳権にはかつては十年留保といって、出版されてから10年翻訳が出なければ(翻訳権が取得されなければ)、自由に翻訳出版できるという例外規定がありま した。ルパンシリーズも初期の作品がこれに該当します。偕成社アルセーヌ=ルパン全集や、創元推理文庫の著作権表示を確認してみると、だいたい次の作品が 対象だったようです。
「怪盗紳士ルパン(1)」「ルパン対ショルメス(2)」「ルパンの冒険(3)」「奇岩城(4)」「ルパンの告白(6)」「水晶の栓(7)」「オルヌカン城の謎(8)」
ということでこれらの作品については翻訳権に拠らず繰り返し翻訳されています。新潮文庫と創元推理文庫両方から出版されている作品もありますね。こ こで、ルパンシリーズに詳しい方には引っかかることがあると思います。「813(5)」は? 順番で行くと「奇岩城(4)」の次に出版されているのではな いかと。しかし偕成社アルセーヌ=ルパン全集にある著作権表示を確認してみると「813」は1923年の管理となっている。分冊されたときに管理が変わっ たのか分かりませんが、年代が後になってしまったため例外の範囲に入らなかったようです。残念。

出典
http://realize.txt-nifty.com/blog/2007/07/post_b900.html

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